最終更新日: 2013/02/07
おはようございます。
「妻の祈り 続編」をお伝えします。
僕がこの10年という月日を共に過ごした、
この女は僕にとってもはや「見知らぬだれか」に成り下がっていた。
彼女が今まで僕のために浪費した、時間、労力、エネルギーに対しては・・・
本当に申し訳ないと思っている。
でも
自分が「ジェーン」を愛しているという気持ちに、
これ以上目を背けることは出来なかった。
承諾書を破り捨てたあと、妻はとうとう大声をあげて泣き始めた。
ヘンな言い方だが、僕はその彼女の泣く姿を見て少しホッとしたのだ。
これで離婚は確定だ。
この数週間、呪いのように頭の中につきまとっていた
「離婚」という二文字は、これでとうとう現実化したのだ。
その翌日、僕は仕事からかなり遅くに帰宅した。
家に戻ると、妻はテーブルに向かって何かを一生懸命に書いていた。
夕食はまだだったが食欲など到底なく、
僕はただベッドに崩れるように倒れ込み寝入ってしまった。
深夜に一度目が覚めたが、
その時も妻はまだテーブルで何かを書いているようだった。
僕はもはや大した興味もなく、ふたたび眠りについた。
朝になって、妻は僕に「離婚の条件」をつきつけてきた。
彼女は家も車も株も、何も欲しくないと言った。
でもその代わりに「1ヶ月間の準備期間」が欲しいと言ってきた。
そして彼女の条件は、その1ヶ月のあいだ出来るだけ
「今までどおり」の生活をすること。
その理由は明確だった。
僕らの息子が、1ヶ月後にとても大切な試験を控えているため
できるだけ彼を動揺させたくないというのが、彼女の言い分だった。
それに関しては、僕は即座に納得した。
だが、それ以外にもうひとつ妻は条件をつけてきた。
「私たちが結婚した日、
あなたが私を抱き上げて寝室に入った日のことを思い出してほしい」と。
そして、これからの一ヶ月のあいだ、あの時と同じようにして・・・
毎朝、彼女が仕事へ行くときに彼女を腕に抱き上げて
寝室から玄関口まで運んでほしいと言うのだ。
僕は「とうとうおかしくなったな・・・」と思った。
でもこれ以上妻といざこざを起こしたくなかった僕は、
黙って彼女の条件を受け入れた。
僕は「ジェーン」にこのことを話した。
ジェーンはお腹を抱えて笑い、「ばかじゃないの」と言った。
今さら何をどうジタバタしたって離婚はまぬがれないのにと
ジェーンは嘲るように笑った。
僕が「離婚」を切り出して以来
僕ら夫婦はまったくスキンシップをとっていなかった。
なので彼女を抱き上げて玄関口まで連れていった1日目
僕らは二人ともなんともヘンな感じで、ぎこちなかった。
それでもそんな僕らの後ろを、
息子はそれは嬉しそうに手をパチパチ叩いてついてきた。
「ダディーがマミーを抱っこして『いってらっしゃい』するよ!」
その言葉を聞くなり、僕の胸はきりきりと痛んだ。
寝室からリビングへ、そして玄関口へと
僕は妻を腕に抱いたまま10メートルは歩いただろうか。
妻は目を閉じたまま、
そっと「どうかあの子には離婚のことは言わないで」と耳元でささやいた。
僕は黙ってうなずいた。
つづく・・・
今日も最後までお読み戴きありがとうございました。
コメントを戴けると励みになります。
mailto:mamoru.pfs23@honda-auto.ne.jp